思い出はシャッター音と共に
写真が好きな理由は、たった一枚のプリントが様々な記憶を呼び戻してくれるからです。
視覚から得られる情報だけでなく、音、匂い、触感、味までも時には再現する。
それは特にその一枚を撮った人間だけの特権かもしれない。
写真を見るたびに、撮り手はシャッターを切った時の瞬間をいつでも思い起こすことができる。
8月の中禅寺湖畔。中華製二眼レフカメラを首にぶら下げて、家族でイタリア大使館別荘へ行った。二階の広い応接間からバルコニーへ出ると、座り心地の良い籐の椅子があり、湖畔からの風が穏やかに吹いてくる。
父や息子と湖に向かって小石を投げた。三段以上のジャンプが決まると嬉しかったりする。
あの日の夏と変わらず、今頃湖畔には涼しい風が吹いているのかもしれない。